※本編のネタバレを遺憾なく含みますので注意!
春風に桜の匂いのないならば 私の心はのどけからまし
ハロー。春風流忍者はるよ、ごきげんよう。
メガロよ。あら、はるも詩歌を嗜んだりするのね。
この季節は一首詠みたくなるよね
俳句も好きだよ。
いつでも死ねる 草が咲いたり 実つたり
旧時代の俳人、種田山頭火ね
私は詩人は萩原朔太郎が好き。
あら、今日はケモミがいないのね。
そう。あの娘がいないいま、うわさ話で大いに盛り上がりましょうよう。
ケモミの妹の話
さいきん村でもケモミの話で持ち切りなんだけど、ケモミの妹を見たって話をちらほら耳にするんだ。メガロ、何か知ってる?
あの娘に妹? 知らないわね。いるとしたらそれは、お父様がいまも人形を作っているということよね……
ケモミとお父さんはまだ会ってないはずだから、そのことを知らないかもしれない。妹に会ったらケモミは喜ぶのかな。
所詮うわさ話。本当にいるかどうかは分からないけれどね。
恋バナ
ケモミ抜きでできる話といえば、恋愛の話じゃなくって? メガロはいままでそういうことって……まぁ、うん。
ああん? 何よ。私だって殿方との恋にときめくことだってあるのよ。
この前だって私が転校した学校で深窓の令嬢として扱われていたんだけれども、そこにね、ちょっかいを出してくる男の子がいたの。ある日私はそいつに放課後の屋上に呼び出されたのだけど、無視して帰ろうとしたのよね。そうしたら帰り道の途中で急に腕を取られて、そいつが恐ろしい形相でこっちを見ているの。振りほどこうとしたんだけれど、強く握られて、怖くて叫び声も上げられなかったわ……
そんなときにね、急にそいつが後ろ側に吹っ飛ばされたのよ。そいつを蹴り倒して私を救ってくれた男の子が現れたの。私のことをストーキングする不審な男が気になって、追い掛けてくれたんだって。よく見たらその男の子はクラスメイトで、教室では目立たないタイプなんだけれど、ちょっとぶっきらぼうなところがあって、それでも恥ずかしそうにね、『俺もメガロのことが気になってたんだ……』って言うの。
そういう長編モノをいま執筆しているところよ。
夢女子じゃねーか。よくそれで深窓の令嬢とか言えたな。引きこもりのキモオタじゃないのよ。
言ったな。○す。
まあまあ、で、メガロはあれだとして、ケモミはどうなんだろうって思うのよ。
ケモミは誰だって好きでしょうね。
うん。ケモミが恋をしたことがないとは言えないけれど、私たちが抱く恋愛感情と同じものを感じることはあるのかしら。直接訊ねたりなんかはとてもできないわね。
でも、ケモミが恋をしたらどうなるのか、興味があるわ。
あー分かる。あの娘が恋するって神秘的な話だもんね
いないからできる話なんだけどね。陰口みたいでやあね。
いまさらでしょう。ほら、はるはどうなの? あんたこそあんまり想像できないんだけれど。だってあんた自分より強くないと嫌でしょう?
まあね。でも経験がないわけじゃないよ。
あ、経験ってのはそっちの意味じゃないからな。
分かってるわよ! 人の妄想に釘を差さないで!
妄想してたのかよ……
まあ私の場合はだ、兄代わりの師匠がいたんだよ。
昔いろいろあってさ、故郷では母代わりの人、姉代わりの人、そして兄代わりの師匠と、義家族として暮していたんだ。
師匠は厳しいけれど優しかった。だけどある日あたしは馬鹿をやっちまったのさ。
私の里は忍びの里だから、人里から離れたところにあるんだ。
私が警らの番をしていたときに、やって来た集団がいて、私はそれを敵だと思って打ちのめしてしまった。
でもそれは里にとって大事な使節の人だったんだよね。
あらあら、やっちまったわね。話は通されてなかったの?
聞いていたよ。でもあいつらに里のことを侮辱されて……あの頃は青かった。ついカッとなってやっちまったんだ。
そうしたら結構不味いことになってさ。
先方は逆上しちまって、あたしの命を差し出せって言うんだ。あたしも覚悟したよ。それだけの無礼を働いたんだろうなって、許せなかったけどさ、まあ仕方がないかなって思ったんだ。
そんなときに、師匠が言ったんだ。私の代わりに自分が抱えの忍になるって。その方が使えないひよっこの小娘の命よりずっと役に立つだろうって演説して、私の身代わりになるって言ったんだ。先方はその提案を受け容れた。
私はそのことが信じられなかったけど、師匠は私に言ったよ。「育てた種の行く末は最後まで見守るもんだ」「お前が花開くその時まで俺はお前を守る義務があるんだ」って。
あたしは自分なんてクソだと思った。師匠ほど凄い忍者はいなかったからだ。
その人はいまどうしているの?
戦地で死んだって聞いてる。あたしは信じてないけどね。
『覗いて』あげようか? その人の痕跡があれば。
無意味よ。師匠が顔を出さないというのは、まだその時じゃないってことなのよ。だから私は、気にしてないわ。
驚いた。そんな風に割り切れる人って珍しいと思うから。
師匠は最後に詩歌を詠んだ。
春霞立つを見捨てて行く雁は 新たないくさ場に住みやならへる
自分のことを雁か何かだと思ってるのよ。師匠って馬鹿だから。
あれ? 尊敬してない?
ま、こんな話しかないけれど、良かったかしら。
あなたがそれを恋バナのカテゴリに入れてるのが衝撃的だったわ。
やっぱり忍ってどこか血なまぐさいというか。義兄との恋って禁断よね。
嫌いだった?
めっちゃ興奮したわ。
やべえオタクだ!?
深窓の令嬢だからね。
多分意味を履き違えてる。引きこもりの上位互換だと思ってる。
それじゃあ今週はこの辺りかしら。またいつかね。
あばよ~
※誠に勝手ながら、今号を持ちまして、週刊ケモミちゃんは半年間程
不定期更新とさせて下さい。
※結果的に安定してケモミシリーズに取り組みたいため、現在製作中の創作物を優先して終わらせたい、という判断をしたためです。
※週刊更新を楽しみにしていた方、本当に申し訳ございません。今後も楽しく読んでいただければ幸いです。
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